CINRA.NET Special Collaboration

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ジャズの巨匠を撮り続けた写真家が営むカフェ&バー

DUGジャズバー「DUG」は、50年以上に渡り新宿の地で営まれるジャズの名店。この場所は、植草甚一や村上春樹をはじめ、さまざまな文化人が集った社交場としても知られている。オーナーの中平穂積さんはジャズ写真家として活躍しており、店にはアート・ブレイキー、セロニアス・モンク、ジョン・コルトレーンなどのジャズミュージシャンの写真も。名だたる巨匠たちが集った場所の息吹を求め、日夜この地をジャズファンたちが訪れている。

「新宿に来たときは大抵訪れていますね。いつもブレンドを頼むんです」と、DUGが新宿での行きつけのスポットであることを教えてくれた志磨さん。じつは、オーナーの中平さんは志磨さんと同じ和歌山県出身。地元が一緒だという縁が、この場所に彼を惹きつけているのかもしれない。久しぶりに訪れたという前野さんは、「せっかくだから」とDUGのマッチで志磨さんのタバコに火をつけていた。

前野:志磨さんがジャズを好きになったのはいつから?
志磨:よく聴くようになったのは30歳を越えてからですね。ドレスコーズの初代ギタリストとベーシストの影響です。前野さんは?
前野:ぼくもそれくらいですかねぇ。
志磨:ぼくはロックから音楽の世界に浸かったので、ジャズはこれから堀りがいがあるジャンルだと感じています。
前野:奥が深い世界ですからね。それにしても中平さんが撮った巨匠たちの写真、渋くてかっこいいですね。対談、いまから緊張するなぁ。

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ハイレゾ音源とアナログレコードが楽しめるバー

Spincoaster Music Bar2015年オープンの音楽メディア『Spincoaster』が運営するハイレゾ音源とアナログレコードが楽しめる音楽バー。店内のアナログスピーカーには「ムジーク」と呼ばれるドイツの高級スピーカーが採用され、高音質で音楽を楽しむことができる。また、音楽業界などの目利きが選んだレコードが店内に並び、自由に試聴リクエストすることも。若年層を中心に話題を集め、新宿の新たなハブスポットになりつつある。二人はお酒を片手に、お互いのレコードを聴き始めた。

前野:志磨さんの音楽は遊園地みたいだね。煙にまかれるようだけど、一雫の真実がある気がする。
志磨:ぼく自身、煙にまいてるつもりはないんですけどね(笑)。でも、表現において、すぐにわかった気になられるのが嫌なところがあって。あまのじゃくなんです。
前野:不思議ですねぇ。そこが志磨さんのトリックスター的な魅力なんでしょうかね。

志磨:お酒も入ったし、最後だから言いますが、ぼくは美学を貫いている前野さんにどこか興味があったんです。だから今日しっかり話せてよかったですね。
前野:ぼくは客観的に見たら「かっこつかない男の最後のやせ我慢」っていう感じかもしれない(笑)。でも、敗者の美学、みたいなものが通用するのは男ならではかもしれないですね。そういう意味で、ぼくは新宿の街にもそういうところを感じます。懐が深い感じが好きなんですよ。
志磨:男のかっこよさって複雑ですからね。

CINRA.NETでもっとディープに

ドレスコーズ・志磨遼平とシンガーソングライターの前野健太が、伝説のジャズバー「DUG」の店主に会いに行く。数々の文化人が愛した店の逸話から、かっこいい歳の重ね方までたっぷりと語り合う。

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後ろめたさも弱さも許容してくれる懐の深い街、新宿

半日かけて、新宿の音楽にまつわる場所を歩いてもらった二人に、改めて新宿という街について印象を伺った。前野さんは「伊勢丹のようなファッションスポットもあるしビジネス街もある。一方で、歌舞伎町は夜の世界で生きる人たちの街。ステージでぼくらが着飾るように、たとえばホストの人たちはこの街の路上で着飾っている。そんな彼らに触発されて、新宿の街に出ると不思議と背筋が伸びる気持ちになるんです。そういう意味では、人間の後ろめたい部分をも許容してくれる懐の深い街だと思っているんですよ」とのこと。志磨氏は「東京に18歳で出てきた頃から何度もライブしてきた街。馴染み深いし、好きなんですよ、新宿のこと」と語った。

8年ぶりの再会に最初はどこか気恥ずかしそうにしていた二人。しかし、それぞれのルーツやバックボーンを共有するごとに距離が近づいていき、歌舞伎町の街に消えていった後ろ姿には、かつて意識し合いながらも距離を置いていた姿はなく、確かな友情が芽生えたようだった。

後日、ジャズカフェ&バー「DUG」のオーナー中平穂積さんを交えて行なわれた鼎談は、『CINRA.NET』で読むことができます。

新宿を感じる音楽

浅川マキ『浅川マキの世界』

浅川マキ『浅川マキの世界』

1960年代、新宿が若者たちの革命で燃えていた時代に、地下劇場から登場したブルース歌手・浅川マキさんのデビュー盤。小さい頃、母親によく聴かされたこのレコードはぼくのアングラ原体験でもあります。プロデューサー・寺山修司による映画『書を捨てよ街へ出よう』のサントラ盤もあわせてどうぞ。(志磨)

ザ・ヘア『R&B天国』

ザ・ヘア『R&B天国』

伝説のモッドグループ「ザ・ヘア」が1990年代後半に主宰していた新宿JAMの看板イベント『R&B天国』の実況録音盤。上京当時、ぼくはいわゆる「和モノ」シーンに少し遅れて足を踏み入れ、同イベントにも精一杯のオシャレをして、恐る恐る遊びに行きました。お客の女の子がみんな自分よりも音楽に詳しくて、負けじと焦ってレコード買いまくった思い出。(志磨)

荒木一郎『D.M.』

荒木一郎『D.M.』

5曲目の“都会・午前4時”という歌に、新宿を感じる。雨が降る都会の午前4時、平和のプラカードが濡れてノリがはがれて散らかっている。その情景は恐らくデモがあった明朝のこと。西口フォークゲリラや映画『新宿泥棒日記』から感じられる新宿の激しかった時代。このレコードは1974年に出ているが、そのある種冷めた視線から、いまの時代に橋渡しされるなにかを感じる。新宿「的」都会の歴史。(前野)

ブリジッド・バルドー『ハーレー・ダヴィッドソン』

ブリジッド・バルドー『ハーレー・ダヴィッドソン』

猥雑さとエレガントさ。B・Bの歌、ゲンスブールの曲に、期待する新宿の姿がある。いつまでも混沌としていてほしい。ゆるさがあってほしい。時代を気だるく駆け抜けてほしい。手元にはこのCDしかなかったですが、表題曲が入っていればベスト盤でも何でも。(前野)